からくり人形師玉屋庄兵衛さんの道具
尾陽木偶師(びようでくし)九代、玉屋庄兵衛さんにお会いしたのは2006年の春、まだ肌寒い頃だったと思います。国立科学博物館の鈴木一義さんがリーダーだった「地域における『ものづくり』の強みに関する調査研究会」で、仕事場を訪ねる機会をいただきました。
そこで拝見した、からくり人形のひとつ一つが大変見事なものでしたが、何よりも感銘を受けたのは、九代目のお人柄でした。決して饒舌な方ではありませんが、からくり人形のことを話されるときは、本当に楽しそうに、しかし深い言葉を静かに発せられます。
戦前までは、からくり人形のしくみは門外不出、秘中の秘でした。しかし九代目はこれを積極的に公開していこうとしています。その志が宿るからでしょうか。九代目の手になるからくりの構造体は、過去の275年の歴代作品の中でも際だって美しく見えました。その時の感銘があまりにも深かったので、半年後に「骨」展を企画し始めたときに、すぐに連絡を取りました。骨格だけで完成形となるからくり人形、「骨からくり」の製作を依頼したのです。
写真は玉屋さんが自らの手で作られた道具の一部です。こういうものが100本以上あって、和箪笥の引き出しの中にきれいに並べられています。自分で道具を作り、手入れするのが基本。新しい弟子を取るとまず三年以上、道具の研ぎの練習をさせるそうです。短い期間でも弟子入りしたくなっていた私の気持ちは、この言葉であっさりくじけました。