脳内メジャー
ものづくりの現場に関わると、計量感覚がかなり重要になってきます。
先日、ある学生に研究中の部品の既存製品はどのぐらいの厚さだったかと聞いたら「薄いものでした」という答え。「いやだからどのくらい?」と聞き直したら「えーと、とても薄かったです」。苦笑するしかありませんでした。
ものづくりの現場にいると、ある段階から「薄くしたい」では許されず、寸法を何ミリにしたいという明快な意思表示が必要になります。その経験を積むと、自然に携帯電話のキーをみて「(突出量が)0.2ミリないかも」とか、車のバンパー見て「8000R(曲率半径が8mという意味です)ぐらいか」とか習慣的に考えるようになってきます。
以前に、公共建築の家具をデザインして、お役所の人が試作品を確認する「検査会」に参加したときの事です。自分もその試作品を見るのが初めてだったので、ついいつもの調子で、椅子の肘掛けのエッジが、私の指示よりシャープになっていることを指摘してしまいました。
「指示した2.5Rよりも小さいと思います」「いや指示通りに作ったはずです」「どう見ても2ミリ以下でしょ」
などのやり取りがあって、結局、県の営繕課やゼネコンの担当者など関係者十数人が見守る中で、エッジの丸みを測定する事に。
工業製品のエッジは、シャープな印象のものでも、触ってけがをしない程度には丸みがつけてあります。製品をぶった切ってみると、エッジのところの断面は小さな円弧になっていて、デザイナーはその半径をR(radiusの頭文字)をつけた寸法で指示します。出来上がった製品のRを見分けるには多少経験がいりますし、製品を切断しないで正確に知るためには専用の道具も必要です。
さて、私が指摘した椅子の肘掛けは、作業員がゲージで測定した結果、エッジ断面の半径が2.5ミリあるべきところが、2ミリ弱しかなかった事が判明しました。もちろんその場で修正が約束されました。その検査会は、新しいデザインの椅子が県に承認されるかどうかの重要なお披露目にあたり、メーカーにとってはかなり緊張した会議でした。しかし、空気の読めない私が一悶着起こしたおかげか、県のお役人からは特に注文が付く事もなく、めでたく1999年に埼玉県立大学の大ホールに設置されています(上はその初期スケッチ)。
後日、「デザイナーって言うのは 、エッジの丸みの0.5ミリの違いを、見ただけでわかるらしい。」って、県庁で評判になっていたと、建築事務所の方から聞かされました。しかし、デザイナーであれば、あらゆる詳細についての計量感覚を持ち合わせている事は当然です。先の学生も、卒業までには「すごく薄い」ではなく「3.5から4ミリぐらいでした」と自然に答えらえるよう、鍛えなおしです。
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ものづくりの現場で求められる計量感覚…
ものづくりの現場で働く人の話には驚かされることが多いのですが、山中俊治さんという方のブログでその実例が挙げられていたのでご紹介します。 ものづくりの現場にいると、ある段…
とても、良い記事を読ませていただきました。
「雑庫/雑録/Tumblr」と言う情報をリストアップしてくれるサイトをRSSリーダに入れてチェックしていた際に、何気なく読んで気に入りました。
計量感覚って、大事ですよね。
貴方の記事の前に、グーグルの入社試験では、フェルミ推定を活用する問題が出されると言う紹介記事も読んでいました。
何事も数量・数値化しながら推理するのは、大事だと言うことでしょうか。
Gurigurimomongaさん
コメントをありがとうございます。
フェルミ推定のような量的推定と、実物を見てサイズがわかる計量感覚は少し別な能力のようにも思いますが、過去につき合った優秀なエンジニアの方々は、共通してその両方に強いと感じます。
千葉工大の古田さんなども、ロボットのサイズの話をちょっとするだけで、必要なモーター出力と消費エネルギー量をあっという間に暗算ではじき出します。
こんばんは。
インテリア空間においても、数字としての寸法はとても大事です。
最近は学生もCADで図面を作図するからか、どうも寸法が自分の中で実感覚として身についていないことが多い気がします。
なので、例えばある空間に家具を配置させると、それが極端に小さくて、こんな小さな寸法の家具なんてないでしょ?
・・・ってことでも、平気で書いちゃうし、疑問にも思わない。
感覚と実際の数字としての寸法を一致させる訓練がデザイナーを目指す学生には必須であると、ひしひしと感じています。
powaroさん
こんにちは。
間取り図で正しく広さを認識できるようになるにも経験が必要ですね。
極端に小さい家具、面白いです。
[…] 計量感覚の話は、随分反響をいただきました。Gurigurimomongaさんのコメントに上げていただいたように、大雑把に推定することも何かを計画するときにはたいへん有用です。フェルミ推定と言うそうですね。 […]