カンブリア紀の素描
カンブリア紀の不思議な生き物たちがちょっとしたブームになったのは、90年代の半ばでしたでしょうか。先日掲載したハルキゲニアをはじめ、神様の試作品などと言われる五億三千万年前の生物群が、S・J・グールドの著作「ワンダフル・ライフ」に紹介され、その後NHKの番組でブレーク。様々な想像図やCG、果てはロボットまで製作されてマスコミを賑わしました。
当時、そのCGやフィギュアを見て、少し違和感を感じました。きれい過ぎる…。
私たちの身の回りにいる生き物たちには、それぞれに個性があり、全くの左右対称ではありません。長く生きるにつれて汚れや欠損も出てきます。体毛や歯なども、きれいに並んでいる方が珍しいぐらい。
しかし、CGのカンブリア生物たちはあまりにもシンメトリーでつるりとしていました。歯や触手もきちんと整列し、皮膚のしわやたるみもなく、プラスチックでできた宇宙生物のよう。そのことが、こいつらの異質さをむやみに高めているのではないか、そんな風に感じたのです。
そこで数体のカンブリア生物の化石の写真を見ながら、現存の生き物のつもりで私なりに描いてみました。上の絵はその一つ、アノマロカリスの頭部です。
生物学者でもない私が文献だけを便りに描いたのですから、もちろん正確なはずはありません。でも、こういう風に描いてみると、従来の復元図よりも少し見慣れた動物に近い感じがしませんか。
リクエストがあればオパビニアやウィワクシアも公開します。
(スケッチの初出は雑誌AXIS。98年、アスキー出版「フューチャー・スタイル」に再掲載。)
おこがましいですが、同じことを感じております。
鉛筆デッサンでリンゴを描かせると、大半の子は左右対称のきれいな形に整えてしまいます。人物を描く上でも人形のようになりがちです。
自然の物にはほぼ左右対称は無く、1ミリの起伏も感じて欲しいとしつこく教えています(笑)
先月ミッドタウンにて講義をお聞かせいただいたyagiと申します。
非幾何学的であることの効果を改めて気付かせて頂きました。一方、私は先生のスケッチには動きが感じられるために、より自然に感じるのではないかと思います。漫画を描く技術との関連を連想いたしました。
いつも考えさせられながら拝見しております。
デザインの見方などとても勉強になります。
デッサン素敵です。触手の節が軋みながら獲物に絡み付く様子が伝わってきます。
なるほど、CGを見た時の違和感は姿が完璧すぎたという事だったのか。
見たまま、感じたままに描くのは見慣れないと気持ち悪いけど、大事な事なんですね。
可能でしたら他の生物のスケッチも見せて頂きたいです。
よろしくお願いします。
yagiさん
運動する人を描くときに、シンメトリーをくずす事は基本ですね。
形の揺らぎは成長の過程で発生し、姿勢の揺らぎは運動の過程で生まれる。
というところでしょうか。
tq3さん、コメントをありがとうございます。
うっかり、クリストさんの絵の直後のエントリーに自分の絵を出してしまった事に後から気がついて、恥ずかしさでドキドキしております。
kohさん
乱れや揺らぎこそが自然の本質である事を、最も強く意識しているのは
水墨画かもしれませんね。
[…] カンブリア紀の生物のスケッチから、オパビニアです。五つの目、象の鼻のようにのびた口、開いたエビのような胴体としっぽ、もうわけがわかんないデザイン。これも過去に紹介したハルキゲニアやアノマロカリスと同じく、化石の写真から私なりに書いてみた、「古生物学者ごっこ」の一枚です。 […]