数万人の足になる

SFC — yam @ 3月 12, 2010 12:16 pm

spp2009020

この1年、公的助成を受けながらメーカーと協力して開発してきた義足の試作機が、いくつか形になってきました。今、全国にちらばる約30人の義足ランナー達に協力してもらってのフィールドテストの真っ最中です。

義足の使用者は日本全国で約八千人にすぎません。一時使用の人やお年寄りも多いので、スポーツ用義足を必要とする人は、潜在的な需要を合わせても数百人でしょう。しかも、失われた脚の状況は一人一人違うので、ひとつのデザインがカバーできる人の数は本当に少ない。今回のフィールドテストでも、こちらから提供する部品を使いつつ、それぞれの被験者を担当する義肢装具士がひとつ一つ手作りしています。

デザインという職業は、近代産業の中で、ひとつのひな型が大量生産される事を前提に成立しました。従ってこれほどの少量生産では、従来の意味でのデザイン・ビジネスは成立しません。しかし、「先端技術と人の関わりを設計する技術」という意味でのデザインが必要とされているのは明らかです。その意味では、マス・プロダクションの申し子であるデザイナーという職能が、真のマイノリティに対するローカルカスタマイズに、どのように貢献できるのかを問う試金石であるように思います。

この義足を見た、障害者医療の研究者の一人がこんな声をかけてくれました。

「この義足を使って走る人は、数十人かもしれない。しかし、その人たちが大観衆の前で走れば、その瞬間にこれは何万人もの足になるでしょう。」

この義足は、日曜日から3日間、アクシスギャラリーのXD eXhibition 10で展示されます。

1件のコメント »

  1. […] 主人公は、交通事故で片足をなくした女優と、その現場に居合わせて彼女のために「美しい義足」を作ろうとするプロダクトデザイナー。実際に義足をデザインしているプロダクトデザイナーとして、少しばかり感想を書いてみたいと思います。 […]

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